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  • 非財務情報の開示へ向けた取り組みについて(第8回)
ジャーナル:

非財務情報の開示へ向けた取り組みについて(第8回)

2023年10月 10日

常務理事パートナー  山本 公太(三優ジャーナル2023年10月号) |

≪はじめに≫ 
 一昨年の12月に「非財務情報の開示へ向けた取り組みについて」と題してクライアント向けセミナーを開催し、大変多くの方にご視聴いただきました。当該セミナーでは、最近ESGの観点からも目にすることが多い「価値創造ストーリー」と同じく関心が高いと思われる気候関連開示のうち、特にハードルの高いTCFD提言の「シナリオ分析」と「GHG排出量計算」を中心にその取り組みを始めるための基礎的な知識について、説明いたしました。本稿では、当該セミナーにおいて時間の都合上割愛した内容を中心に、引き続き解説します。

≪GHG≫ 
 地球温暖化の原因の一つとして挙げられるのがGHG(温室効果ガス)となります。2015年に温暖化対策の国際的な枠組みとして、国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)において、いわゆる「パリ協定」が採択され、世界共通の認識として以下の「2℃目標」が掲げられました。
・世界の平均気温の上昇を、産業革命以前に比べて2℃より低く保ち、1.5℃に抑える努力をすること
・21世紀後半でのGHG排出を正味ゼロにすること

 そもそもGHG(温室効果ガス)とはGreenhouse Gasの略語であり、エネルギー起源CO2、非エネルギー起源CO2、メタン、一酸化二窒素などが含まれます。世界的に問題とされるGHG排出量については、その大半(約90%)をCO2(二酸化炭素)の排出量が占めており、主な発生要因は石炭、石油、天然ガスなど化石燃料の燃焼であるとされています。ここで注意が必要なのはTCFD提言を始めとして開示が要求されているのはGHGの排出量であり、CO2以外のものも含まれているという点です。GHG排出の算定対象となる具体的な活動については、環境省及び経済産業省が公表している「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する 基本ガイドライン」において、明示されていますので参考にして下さい。

≪GHG排出量の算定≫
 TCFD提言及びその後のISSB(国際サステナビリティ基準審議会)において、開示が求められるGHG排出量は以下の3つとなります。
 Scope 1:自社の燃料使用に伴う直接排出量
 Scope 2:自社が購入した燃料の間接排出量
 Scope 3:サプライチェーン排出量(商品・サービスの調達、販売、輸送、廃棄など)

 このGHG排出量は、経済統計等で用いられる「活動量」に「排出係数」を乗じて算出するというのが基本となります。実際の算定には詳細な分析、手続きが必要となり、また、上述のとおりCO2以外の排出量も含まれますが、以下では基本を理解するため各Scopeについて、ほぼ全ての企業に影響する「エネルギー起源CO2」に限定して概要を解説します。
 なお、実際の算定に際しては、環境省(グリーン・バリューチェーンプラットフォーム)より、各種ツールが提供されていますので、参考にして下さい。
(ご参考)
「温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル」、「温室効果ガス総排出量算定方法ガイドライン」、「基本ガイドライン」、「業種別解説」、「排出原単位について」、「排出原単位データベース」、「算定支援ツール」、「サプライチェーン排出量算定の考え方」など

≪Scope1「燃料使用」≫
 Scope 1で算定するのは、「燃料の燃焼に伴うCO2排出量」であり、例えば工場等で企業が自ら燃料を使用(焼却)する際に排出されるCO2の直接排出が対象となります。業種によって多岐にわたりますが、算定式を簡略化すると以下のようになります。
 ①    燃料種類ごとの発熱量:使用料×単位発熱量(*1)
 ②    炭素排出量:①の発熱量×炭素排出係数(*1)
 ③    CO2排出量:②の炭素排出量×CO2重量比「44/12」(固定値)
 ④    「Scope1」CO2排出量:燃料ごとの③を合算

 ①の「燃料種類ごと」とは、ガソリン、ガス等の種類別のことであり、ガソリンはさらにハイオク、レギュラー、軽油に、ガスについても都市ガス、LPG等に区分して算出し、④で合算することでScope 1の排出量が算定されます。
 上記の各計算式における掛け算の右辺は、必要なデータをガイドラインや一覧から転記することになるため、極めて簡単に言えば1年間の「使用料」が判明すれば算定することが可能です。なお、③の「CO2重量比」は分子の重量比であり固定値となります。

≪Scope2「購入した燃料」≫
 Scope 2で算定するのは、「他者から供給された燃料に伴うCO2排出量」であり、例えば電力会社等から企業が購入した電気及び熱の使用に伴う間接排出が算定対象となります。算定式を簡略化すると以下のようになります。
 ①    電気の供給元ごとのCO2排出量:電気使用量×CO2排出係数(*2)(*3)
 ②    電気のCO2排出量:供給元ごとの①を合算
 ③    産業用蒸気のCO2排出量:熱使用量×CO2排出係数(*1)
 ④    産業用蒸気以外(蒸気・温水・冷水)のCO2排出量:熱使用量×CO2排出係数
 ⑤    熱のCO2排出量:③+④
 ⑥    他者に供給した電気・熱のCO2排出量
 ⑦    「Scope2」CO2排出量:②+⑤-⑥

 他者から購入していれば電気だけではなく熱も算定対象となります。また、⑥の「他社に供給した電気・熱のCO2排出量」とは、例えば自社のボイラーで作った蒸気を近隣の他者に提供している場合などが考えられ、排出量を算定するうえで控除項目として扱われます。

(*1)環境省「温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル」「、温室効果ガス総排出量算定方法ガイドライン」

(*2)環境省「電気事業者別排出係数一覧」

(*3)直近で公開されている値ではなく、算定対象とする年の値を使用

≪Scope3「サプライチェーンの排出量」≫
 GHGの排出量算定において、最も労力を要するのがScope3の「サプライチェーン排出量」であり、その名のとおり自社を中心とするサプライチェーン全体での排出量が対象となります。その主な特徴としては、以下の点が挙げられます。
 ・15のカテゴリが設定されている。
 ・自社を起点に上流と下流に分類される(上流:カテゴリ①から⑧、下流:⑨から⑮)。
 ・カテゴリごとに計算式が異なる。
 ・GHGプロトコルが定める国際的な算定基準がある。
 ・算定対象は、原則として企業グループ全体とされている。

 実際の算定に際して、取引先等に実測値に関する情報提供を依頼してScope3を算定する場合、算定のために膨大な労力及びコストを要することが懸念されます。そのため、まず「簡便的な算定方法」により全体像を把握し、次に、特に排出量の多いカテゴリの実測値を元に算定した上で、削減方法を検討することが効率的であると考えられます。
 基本的な算定式は、「CO2排出量=活動量(物量・金額など)×排出原単位」であり、排出原単位は、環境省「排出原単位データベース」で確認することが出来ます。そのため各カテゴリにおける「活動量」が何を現すのかを理解すれば、に算定が可能となります。
 GHG排出量の算定におけるScope 3については、次回において引き続き解説します。