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  • 実務対応報告公開草案第66号 「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い(案)」の公表について
ジャーナル:

実務対応報告公開草案第66号 「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い(案)」の公表について

2023年12月 11日

公認会計士  佐藤 義弘(三優ジャーナル2023年12月号) |

Ⅰ.はじめに
 2022年6月に「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」により「資金決済に関する法律」(以下、「改正資金決済法」)が制定された。改正資金決済法は、ステーブルコインのうち、法定通貨の価値と連動した価格で発行され券面額と同額で払戻しを約するもの及びこれに準ずる性質を有するものを新たに「電子決済手段」と定義し、また、これを取扱う電子決済手段等取引業者について登録制を導入するなど、必要な規定の整備を行っている。当該規定の整備を背景に、ASBJは2023年5月31日に以下の実務対応報告及び企業会計基準の公開草案(以下合わせて「本公開草案等」という。)を公表した。
・実務対応報告公開草案第66号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い(案)」(以下「本公開草案」という。)
・企業会計基準公開草案第79号「『連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準』の一部改正(そのⅩ)(案)」(以下「キャッシュ・フロー作成基準一部改正案」という。)
 本稿では、本公開草案等の概要について説明を行う。なお、本稿に係る意見については筆者の見解であり法人の見解ではないことを申し添える。

Ⅱ.経緯
 情報通信技術の進展に伴い、ブロックチェーンをはじめとする分散型台帳技術等を利用した金融サービスに関しては、送金・決済の分野において、法定通貨との価値の連動等を目指すいわゆるステーブルコインを用いた取引が、海外において増加している。ステーブルコインとは、取引価格の安定を目的に、米ドルや金などの資産と連動するように設計された仮想通貨の一種である。法定通貨に価格をペッグ(紐付け)し、価値を安定させることで従来の暗号資産のデメリットとして挙げられていた暗号資産の価格変動による投機性を排除し、決済手段や資産保有としての安定を図ることを目的としたものである。
 こうした背景をもとに財務会計基準機構内に設けられている企業会計基準諮問会議に対して、資金決済法上の電子決済手段の発行及び保有等に係る会計上の取扱いについて検討するよう2022年7月に要望が寄せられた。これを受けて検討を進めた結果、今回公開草案として公表することとなったものである。
 なお、今後の電子決済手段の取引の発展や会計実務の状況により、本公開草案において定めのない事項に対して別途の対応を図ることの要望が市場関係者よりASBJに提起された場合には、公開の審議により、別途の対応を図ることの要否をASBJにおいて判断することとされている。

Ⅲ.本公開草案の概要
1.範囲(本公開草案第2項、第3項)

 本公開草案では、資金決済法第2条第5項に規定される電子決済手段のうち、第1号電子決済手段、第2号電子決済手段及び第3号電子決済手段を対象とすることが提案されている。各号の内容については、次の表を参照いただきたい。

分 類 内 容
第1号 物品等の購入若しくは借り受け、又は役務提供の代価弁済のために不特定の者に対して使用でき、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却できる財産的価値(通貨建資産に限る)*1、*2
第2号 不特定の者を相手方として第1号電子決済手段と相互に交換できる財産的価値(通貨建資産に限る)*1、*2
第3号 金銭信託の受益権であって、信託契約により受け入れた金銭の全額が預貯金により分別管理されるもの(特定信託受益権)*1
第4号 上記に準ずるものとして内閣府令で定めるもの‌*3

*1電子機器等に電子的方法で記録され、電子情報処理組織を用いて移転できることが要件となっている。
*2有価証券、電子記録債権、電子マネー等の前払式支払手段等は、原則として除外。
*3本公開草案が公表された時点において、第4号電子決済手段に指定されるものは見込まれていない。
 また、第3号電子決済手段の発行者側に係る会計処理及び開示に関しては、実務対応報告第23号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」を適用することとされている。

2.本公開草案の対象となる電子決済手段の主な特徴及び会計的な性格(本公開草案BC10項からBC18項)
(1)本公開草案の対象となる電子決済手段の主な特徴
 本公開草案の対象となる電子決済手段は、主な特徴として以下を有するとされている。
①送金・決済手段として使用されるものである(第2号電子決済手段を除く。)。
②電子決済手段の利用者の請求により電子決済手段の券面額に基づく価額と同額の金銭による払戻しを受けることができるものであり、次のⅰ)及びⅱ)の発行者に対する規制により、価値の安定した電子的な決済手段である。
③流通性があるものである。
 上記の分類に当てはめて見ていくと、まず第1号電子決済手段及び第3号電子決済手段は、その券面額に基づく価額をもって財又はサービスの対価の支払に使用されるものである。
 また、第2号電子決済手段については、第1号電子決済手段と同等の経済的機能を果たす可能性がある電子決済手段であり、第2号電子決済手段の発行者に対して第1号電子決済手段と同一の所要の規制(下記②ⅰ)参照)を及ぼすために規定が設けられている。
ⅰ)第1号電子決済手段及び第2号電子決済手段は通貨建資産であり、契約等により、当該電子決済手段の利用者は金銭による払戻しの請求を行うと、速やかに電子決済手段の券面額に基づく価額と同額の金銭による払戻しを受けることが約されている。第1号電子決済手段及び第2号電子決済手段の発行者は、法令上で経営の健全性の確保が求められている銀行等又は電子決済手段の発行残高の概ね全額を保全するように履行保証金の供託等が求められる資金移動業者に限られている。
ⅱ)第3号電子決済手段については、当該電子決済手段の利用者により信託された金銭と同額の金銭信託受益権(資金決済法第2条第9項)が当該利用者に交付され、電子決済利用者が当該金銭信託の受益権の払戻し請求を行った場合、速やかに当該電子決済手段の券面額に基づく価額と同額の金銭による払戻しを受けることができる。この第3号電子決済手段においては、電子決済手段の利用者が信託する金銭の全額について預金者又は貯金者がその払戻しをいつでも請求できる預貯金(取引業府令第3条)により分別管理され、信託財産の倒産隔離が図られている。なお、信託財産である預貯金が預金保険又は貯金保険の保護の対象に含まれるか否か及び預金保険又は貯金保険の保護の対象に含まれる場合における保護の上限は、当該預貯金の種類等により異なるとしている。
 第1号電子決済手段及び第2号電子決済手段は、電子的な通貨建資産としての財産的価値であり、当該財産的価値が電子決済手段の利用者の間で移転される。また、第3号電子決済手段は、金銭信託の受益権が電子決済手段の利用者の間で移転される。このため、電子決済手段等取引業者を通じて電子決済手段が売買される場合、流通市場が形成される可能性があるとされている。
(2)電子決済手段の会計上の性格
 本公開草案では、上記(1)の特徴から、本公開草案の対象となる電子決済手段が現金又は預金そのものではないが現金に類似する性格と要求払預金に類似する性格を有する資産であることを踏まえ、当該電子決済手段に係る会計処理等を定めることが提案されている。
①第1号電子決済手段及び第3号電子決済手段は、その券面額に基づく価額をもって財又はサービスの対価の支払に使用される点で交換の媒体となるなど通貨に類似する性格を有していると考えられる。
②本公開草案の対象となる電子決済手段は、払戻しの請求を行うと速やかに金銭による払戻しが行われるものであり、かつ、電子決済手段が払戻されないリスク(換金リスク)は、発行者等に対する規制により、要求払預金における信用リスクと同程度であると考えられる。この点、要求払預金に類似する性格を有していると考えられる。

3.実務上の取扱い
(1)電子決済手段の保有に係る会計処理(本公開草案第5項から第7項)
①電子決済手段の取得時の会計処理
 受渡日に電子決済手段の券面額に基づく価額をもって資産として計上し、取得価額と券面額に基づく価額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理する。
②電子決済手段の移転時又は払戻時の会計処理
 本公開草案の対象となる電子決済手段を第三者に移転するとき又は電子決済手段の発行者から電子決済手段について金銭による払戻しを受けるときは、その受渡日に当該電子決済手段を取り崩すこととされている。また、電子決済手段を第三者に移転するときに金銭を受け取り、当該電子決済手段の帳簿価額と金銭の受取額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理するとすることとされている。
③期末時の会計処理
 本公開草案の対象となる電子決済手段は、その券面額に基づく価額をもって貸借対照表価額とされている。
(2)電子決済手段の発行に係る会計処理(本公開草案第8項から第10項)
①電子決済手段の発行時の会計処理
 本公開草案では、次のように提案がなされている。まず、受渡日に電子決済手段に係る払戻義務について債務額をもって負債として計上する。その上で、発行価額の総額と当該債務額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理する。
②電子決済手段の払戻時の会計処理
 本公開草案の対象となる電子決済手段を払い戻すときは、その受渡日に払戻しに対応する債務額を取り崩すこととされている。
③期末時の会計処理
 本公開草案の対象となる電子決済手段に係る払戻義務は、期末時において、債務額をもって貸借対照表価額とすることとされている。
(3)外貨建電子決済手段に係る会計処理(本公開草案第11項及び第12項)
 本公開草案では、以下の会計処理が提案されている。
 外貨建電子決済手段の期末時における円換算については、「外貨建取引等会計処理基準」-2(1)1の定め(外国通貨の換算方法)に準じて決算時の為替相場による円換算額を付す。また、外貨建電子決済手段に係る払込義務の期末時における円換算については、「外貨建取引等会計処理基準」-2(1)2の定め(外貨建金銭債権債務の換算方法)に従って決算時の為替相場による円換算額を付す。
(4)預託電子決済手段に係る取扱い(本公開草案第13項)
 電子決済手段等取引業者及び発行者は、電子決済手段の利用者との合意に基づいて当該利用者から預かった本公開草案の対象となる電子決済手段を資産として計上せず、また、当該電子決済手段の利用者に対する返還義務を負債として計上しないこととされている。

4.開示(本公開草案第14項及びBC45項)
 本公開草案の対象となる電子決済手段は金融資産であると考えられること、電子決済手段に係る払戻義務は金融負債であると考えられることから、電子決済手段及び電子決済手段に係る払戻義務に関して、金融商品会計基準第40-2項に定める事項の注記を求めることとされている。
 ここで、電子決済手段について当該電子決済手段が要求払預金に類似する性格も有する資産であることに鑑み、預金に関する取扱いに準じることとされている。また、電子決済手段に係る払戻義務は、金銭債務であるため、例えば、金銭債務に関する取扱いに従うことになるとされている。

5.連結キャッシュ・フロー計算書等における資金の範囲(キャッシュ・フロー作成基準一部改正案第1項から第3項)
 資金の範囲について、キャッシュ・フロー作成基準一部改正案においては、本公開草案の対象となる特定の電子決済手段、すなわち、資金決済法第2条第5項第1号から第3号に規定される電子決済手段(外国電子決済手段については、利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限る。)を現金に含めることとされている。

6.適用時期
 改正資金決済法の施行に合わせて公開草案等の対象となる電子決済手段が発行される場合、可能な限り早い時期に適用することのニーズが高いと考えられること、定める会計処理等には複雑さがなく、その適用の困難さはないと考えられるため、特段の準備期間は必要ないと考えられ、公表日以後適用することされた。
 なお、適用にあたっては、特段の経過的な取扱いを定めないこととしたため、企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第6項(1)に定める会計方針の変更に関する原則的な取扱いに従い、新たな会計方針を遡及適用することになるとされている。

7.終わりに
 決済や資産保有手段は従来の現金預金を中心とした方法に加え、今後は暗号資産など新たな手段の活用が広がっていくことが想定される。したがって、今回の公開草案等の公表をベースにしつつ、新技術の開発等により草案で規定されていないような事案が発生することも想定して会計上どのように処理すべきか今後とも検討を続けていく必要性を改めて認識した次第である。