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  • 「経済のデジタル化に伴う国際課税上の課題への対応:第一の柱」の進捗状況 続 第一の柱Amount Aを実施するための多国間条約
ジャーナル:

「経済のデジタル化に伴う国際課税上の課題への対応:第一の柱」の進捗状況 続 第一の柱Amount Aを実施するための多国間条約

2023年12月 14日

BDO税理士法人(三優ジャーナル2023年12月号) |

始めに
 今回は、BDO三優ジャーナル№154で報告した「経済のデジタル化に伴う国際課税上の課題への対応:第一の柱の進捗状況」の続編となる。№154では、第一の柱は、通常の利益とされる一定額を超える利益を超過利益(AmountA)であるとみなし、その超過利益の一部の課税権を、子会社・支店がない国地域であっても収入の源泉がある市場国に新たな概念(Nexus)により配分し、市場国での課税を認めるとともに、二重課税を防ぐための強力な紛争予防・解決メカニズムの導入が検討されていると説明した。
 2023年10月11日、OECD/G20「税源浸食と利益移転に関する包括的枠組み」(包括的枠組み以下「IF」)は課税権の市場管轄権への再配分を調整し、課税の確実性を向上させ、デジタルサービス税を撤廃するための国際的な租税枠組みを更新する新たな多国間条約(以下「AmountA-MLC」または「MLC1)を公表した。MLCは、G20財務相・中央銀行総裁会議(モロッコで2023年10月12-13日に開催された2)にOECD事務総長税制報告書3の別紙資料として提出された。MLCが発効するには、AmountAの適用範囲に含まれると予想される多国籍企業の少なくとも60%の本社所在地を含む、少なくとも30の国・地域が批准する必要がある。なお、同報告書にはPillar2に関する資料として「MinimumTaxImplementationHandbook(PillarTwo)」が添付されている。
 2023年7月12日付IFのプレスリリース4では、IF参加国143か国中138ケ国が、このMLC案を承認し、デジタルサービス税又は類似の措置(以下「DST」)の賦課又は徴収を検討している場合、それを2024年12月31日またはMLCの発効日まで延長することを合意していると報じている。しかし、カナダ、パキスタン、スリランカの3カ国は延長を支持せず、さらにベラルーシとロシアの2カ国はウクライナ侵攻を理由にOECD加盟を停止している。
 日本では2023年6月開催の内閣府税制審議会における資料で、「第一の柱についても、国・地方の法人課税制度を念頭に置いた検討が考えられます。」と報告されているが、AmountAの課税に関する立法のスケジュールは明確にされていない。租税条約は、それ自体は法源とならず、国内法として成立した国内租税法と他国の租税法との調整を定めるものである。財務省のホームページを見ると、第一の柱(市場国への新たな課税権の配分)に関するコラムに「2023年前半に多国間条約の署名、2024年に多国間条約の発効が目標。(※)検討中のMLCの承認に加え、各国国内法の改正も必要」と説明されている5ので、国内法の導入は検討されていると考えられる。
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1 正式名称“THE MULTILATERAL CONVENTION TO IMPLEMENT AMOUNT A OF PILLAR ONE”(第一の柱のAmount Aを実施するための多国間条約)
2 https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/convention/g20/g20_20231013.pdf第4回G20財務大臣・中央銀行総裁会議声明(仮訳)(2023年10月12-13日於:モロッコ・マラケシュ)
3 https://www.oecd.org/tax/oecd-secretary-general-tax-report-g20-finance-ministers-india-october-2023.pdf?utm_campaign=Tax%20News%20Alert%20%2012-10-23&utm_content=Read%20the%20report&utm_term=ctp&utm_medium=email&utm_source=Adestra
4 https://www.oecd.org/tax/beps/138-countries-and-jurisdictions-agree-historic-milestone-to-implement-global-tax-deal.htm
5 「令和5年度税制改正」(令和5年3月発行)https://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei23/05.html

AmountA-MLCの概要
 MLCでは、❶AmountAへの課税は、批准後7年間は世界的な売上高が200億ユーロを超え、かつ総利益が10%を超える多国籍企業(MNE)にのみ適用される。当該売上高の閾値は7年間の見直しを経て100億ユーロに引き下げられる予定とされている。また、❷MLCのもとで必要とされる決定や機能の行使(解釈や実施に関するものも含む)を行う「締約国会議」を設置する。❸一方、MNEへ、MLCの適用範囲に含まれるかどうかについて、拘束力のある多国間の確認プロセスを提供する仕組みに関する規定も設けられている(第5部第2節第Ⅱ部から第Ⅳ部に対する課税確認の枠組み)。❹MLC締約国間の既存の2国間租税条約は、継続して適用されるが、AmountAに関するMLCの適用を可能にするために必要な限度で、MLCに取って代わられる。MLC非締約国と2国間租税条約は影響を受けない。❺MLC締約国は、DSTを課さないことを約束している。撤廃しなければならない既存の措置のリストは、MLCの附属書Aにあり、インド、オーストリア、フランス、スペイン、イタリア、英国他2ケ国合計7ケ国9制度がリストに挙げられている。なお、カナダは3%デジタル課税の導入を検討中である6
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6 BDO Global Tax News issue.67 (August2023)

AmountA-への課税
 MLCの条文を確認すると、AmountAの定義、超過収益を算出する規定、市場国(Nexus)の定義、配賦基準に関する規定、二重課税の排除のための規定等が設けられている。AmountAは、多国籍企業グループの利益から算出される。税率についての規定はない。
 第一の柱は、従来の「PEなければ課税なし」の原則(PE原則)を一部修正し、通常利益と考えられる部分を除いた残余利益の一部をPEの有無にかかわらず売上に応じて市場国に課税権を配分する仕組みを構築しようとするものである。第一の柱以前にもPE原則の例外として特定の所得(利子、配当、使用料等)については、源泉税という課税方法で、支払者を通じて課税が行われている。また、不動産所得・譲渡所得などの国内にある財産から生じる所得や、国内で提供された労務に起因する給与所得が、国内に拠点を持たない法人・個人(外国法人、非居住者)に生じた場合には国内に拠点を持つ納税管理人を選任し、税務署に届出た上で、申告納税することになっている。この納税管理人に関する制度が2021(令和3)年税制改正により、従来の「納税管理人」制度に加えて、新たに「特定納税管理人」制度が創設され、納税者から自発的に納税管理人の届出がない場合において、税務当局が納税者に対して納税管理人の指定及び届出を要請しても届出がないなど、一定の要件を満たすときには、納税地を所轄する税務署長等が国内に住所又は居所を有する一定の者(国内便宜者)を納税管理人(「特定納税管理人」と言う)に指定することが可能とされ、特定納税管理人に係る規定は、2022(令和4)年1月1日から施行されている。日本では、デジタル課税としての制度の導入は検討されていなかったが、AmountAへの課税の準備は進められていたようだ。

まとめ
 IFでは引続きAmountBへの課税についても検討され、報告書の公表準備が行われていると報じられている。なお、公表されているMLCのページ数は211ページ、解説文書は638ページであった。

以上

表 第一の柱のAmount ‌Aを実施するための多国間条約 ‌目次